旅する絵描き


先日、上京した。
目的は、あの山野井泰史さんへのインタビューである。
偶然にも、そんな幸運な機会に恵まれた。
奥多摩から車で走ること10分ほどで、
山野井さんのご自宅へ到着。
妙子さんとふたりで出迎えてくれた。
およそ3時間、
いろいろなお話を伺った。
インタビューではあるが、
知人と話しているような感覚。
自慢せず、ほがらかで、
どんな質問にも親身になって率直に答えて下さった。
ああ、こんな人がいて、
こんな生き方があるのだと、
話を聞きながら心が揺さぶられた3時間だった。
本当に心地良く、幸福な時間だった。
その夜は、一緒に山野井さん宅へ伺った先輩ライターとカメラマンさんと3人で、
近くでキャンプをした。
こんなふうにキャンプをするのは、
何年ぶりだろうかと、
少し懐かしくなった。
翌日は、世田谷文学館で行われている
絵本作家のいせひでこさんの展覧会に行った。
いせさんは「旅する絵描き」として知られている。
フランスの本の修理屋さんを題材にした『ルリユールおじさん』や
絵描きの少年が主人公の『絵描き』
などの絵本がある。
なかでも『絵描き』はぼくが好きな絵本で、
山を歩き、旅をして絵の着想を得て、
悩み苦しみながらも絵を描く、
まさに「旅する絵描き」の苦悩と喜びが描かれている。
大震災から今日で3週間。
岐阜ではそれまでとさほど変わらない日常の時間が流れているのだが、
被災地ではこれからも長い時間、
困難な生活と復興活動が続けられる。
そして、まだ見つかっていない方々も多い。
こんなとき、
絵や文章がどんな力になれるだろうか。
自分のあまりの無力さに
自分の仕事とは何なのか、
自分の生き方とは何なのかと、
自問自答する日々が続いている。