奥穂高岳登山


 2泊3日の日程で奥穂高岳に出かけた。沢渡で車中泊をして迎えた朝は雨が降っていた。5時に目を覚ますが、雨音を聞いたら睡魔に襲われ、結局7時に起きて上高地へ向かうバスに乗った。車窓から見上げるすぐ近くの山は薄らと雪化粧をしていた。
 歩き出す頃には雨は止み、雲間からわずかに青空が顔を覗かせるほどになった。次第に雲が晴れ、残雪を抱いた明神の岩峰を仰ぎ見ながら歩みを進める。林床をニリンソウが埋めている。暖かな初夏の陽射しを浴びて、花も、草も、木々も、雪解け水のせせらぎも踊るように輝いて見える。
 4月の初めに足を怪我し、一月半運動をすることができなかったので、今回はリハビリを兼ねての山行である。久しぶりにテントを背負って歩くのだけれど、なまった足腰も意外と動いてくれる。本谷橋を越えたところから雪道になり、雪面にステップを刻んで歩くのに、さすがに筋力の衰えがひびいてきた。ペースが落ち、涸沢に到着したのは午後3時過ぎだった。
 涸沢のあちらこちらにデブリが見られた。雪崩れた痕は茶色になっていて、そうでないところは白い雪が積もっている。この白い雪は昨晩から今朝にかけて降ったもののはずなので、これらのデブリはすべて今日できたものだとわかる。小屋に4泊しているというおじさんに話を聞くと、今朝20cmの積雪があり、午前8時を過ぎたあたりから一斉に雪崩れだしたということだった。
 涸沢ヒュッテにテントを張った。5月から6月は一番穂高が輝く時期だと、多くの人から耳にした。雪と岩、燦々と照りつける明るい陽射し。空には雲ひとつなく、長い日が落ちると満点の星空が広がった。平日なのでテントは合計5張り。静かな涸沢の夜が更けていった。
 翌日、写真を撮るために日の出を待ち、雪が緩む前に出発。先行パーティーが小豆沢を登っている。15cmほどのところに弱層がある。ザイテングラードにルートを取ろうか迷うが、雪が締まっているうちに登り切ったほうが良いような気がした。先行パーティーのトレースを辿って一気に穂高岳山荘まで登った。
 すっぽりと雪に埋まった山荘の前で小休止し、奥穂への岩場に取りつく。天気は良いが、雪が緩み、ふくらはぎ近くまで潜るためにしんどい。できるだけ岩場を辿るように稜線を歩き、奥穂の頂上に到着した。槍ヶ岳から立山、後立山の山まで見渡せた。しばらく祠の前で景色を眺めてから下降を開始。慎重に奥穂高岳山荘まで下り、さらに涸沢側へ下っていくと、案の定、表層が雪崩れていた。気温が上がって雪崩れたものもあるが、みんなシリセードをするために崩れているものも多分にあるような気がした。おおかた表層の雪は崩れきっており、上部に注意しながらザイテングラード寄りの雪面を一気に駆け下った。
 昼前に下ってきたので、テントの外にマットを出して、日焼けしないように顔だけテントの中に入れて昼寝をし、焼酎を飲んでグダグダと過ごした。夕方から風が出てきた。明日は天気が崩れるということなので、早めにシュラフに包まったが、翌日も午前中は天気がもってくれ、雨に降られることなく山を下った。
 残雪の穂高は確かに素晴らしいものだった。ひとりで行くの良いが、仲間と行って陽光に輝く穂高を眺めながら生ビールを飲むのは、また格別な時間のような気がした。
 この様子は、次号『PEAKS』に書いています。