シカの頭

友人から、エゾシカの頭をもらった。
以前から、頭骨標本をつくりたいと思っていて、
もし、動物の頭骨が手に入ることがあれば譲って欲しいと頼んでおいたのだった。
友人のそのまた友人が、
毎年北海道にシカ猟に出かけるらしく、
そのときに仕留めたエゾシカの頭が
送られてきたのだった。

まず、首の後からハサミとナイフで毛皮を切っていき、
皮をはぐ。
北米北西海岸先住民のあいだでは、
動物は毛皮を来たそれぞれの「人」であると考えられてきた。
たとえば、クマはクマの毛皮を被った「クマの人」であり、
クマの世界に人間と同じような社会をもって生活しているのだと。
皮をはいだ動物は
なるほど、人間のように華奢であり、
色合いも肌色に近い。
肉がどのようについているのか、
筋がどのようにはいっているのか、
解体をするごとに発見の連続である。

皮をはいだ頭を
薪で湯を沸かしたお釜の中に入れ、
肉を溶かしやすくするために重層を入れて
ぐつぐつと煮込む。
ときどき取り出しては、
ナイフやピンセット、歯ブラシで肉や軟骨を取り除いていく。
顎と頭部が別れたところで、
小さな鍋に入れ替えて、
今度はカセットコンロでゆで続ける。
一日ではきれいにならず、
二日目も同じように、根気に掃除をしていく。

頭骨が見せる曲線。
どうしてこんなにも絶妙な形をしているのか。
しかも、そのすべてが無駄がなく、
実用的な造形であり「自然」なのである。

どれほど優れた芸術家でさえも、
人間がこのような形を考え、
想像することなどできないだろう。
自然とは、確かに創造主なのだと
次第に骨だけになっていく頭骨を眺めながら思った。
自然は、命さえも創造する。
生きものの不思議。

二日間の作業でもしっかりと石灰質の骨だけになっていないので、
また明日作業を続けようと思う。